疾患別症状
不安障害
大勢の人の前で話すときや大事な試験のとき、緊張して汗をかいたり、心臓がドキドキしたりするのは当たり前の反応です。でも心配や不安が過度になりすぎて、日常生活に影響が出ていたら、それは不安障害かもしれません。不安障害は、精神的な不安から、こころと体に様々な不快な変化が起きるものです。ひとくちに不安障害といっても様々な疾患があるので、代表的な疾患をお伝えします。
パニック障害
地震や津波そして火事などの突発的災害で、生命の危機に直面した時や危険な状況が迫っている場合、多くの人はパニック状態に陥ります。突然胸が苦しくなったり、動悸が早くなったり、冷や汗が出たりすることもあるでしょう。
ところが人によって、なんでもない普通の時に、パニック状態のような反応が起きることがあります。
- 突然理由もなく動悸やめまい、発汗、窒息感、吐き気、手足の震えといった発作がおきる
- 発作のために生活に支障が出ている
- パニック発作は、死んでしまうのではないかと思うほど強い
- 発作は、自分ではコントロールできないと感じます
- 発作が起きたらどうしようかと不安になる
- 発作が起きやすい場所や状況を避けるようになる
とくに、電車やエレベーターの中など閉じられた空間では「逃げられない」と感じて、外出ができなくなってしまうことがあります。
パニック障害では薬による治療とあわせて、少しずつ苦手なことに慣れていく心理療法が行われます。無理をせず、自分のペースで取り組むことが大切です。救急車で病院に運び込まれるけれども、どこを調べても異常は見つからないこともございます。なかなか、人に理解してもらえない症状ですので、周囲の方もゆっくりと見守ることが必要な疾患です。
社交不安障害
社交不安障害は、レストランでの食事、人との会話、人前でのスピーチなど、人に注目される場面において、自分が恥ずかしい思いをするのではないかと怖くなってしまう疾患です。
- 不安な気持ちが高まる
- 電車やバス、繁華街など、人が多く集まる場所を避ける
- 学校や仕事に行けなくなる
- 日常の趣味や人間関係が制限される
失敗や恥ずかしい思いがきっかけになることもよくありますが、思春期の頃は、自分に自信が持てないことがきっかけになることもあります。お薬や、考え方を修正するトレーニングを行いながら治療していきますが、治療に時間がかかることも多く、根気強く治療に向き合っていくことが大切です。
強迫性障害
- 鍵を閉め忘れたかもしれない
- 鍋を火にかけたままだったかもしれない
このように不安になって確認することは、多くの方が日常的に経験していることです。しかし中には、不安やこだわりが度を超していて、生活に支障を来たしている方もいらっしゃいます。
- 戸締まりの確認が止められないので、外出するまでに時間がかかってしまう
- 手が汚れているのではないかと不安になり、手洗いを繰り返すあまり手荒れがひどくなる
- 些細な汚れが気になって、買ったばかりの家具や洋服を頻繁に捨ててしまったりする
このような症状が、なぜ強迫性障害になるのか、はっきりとした原因は分かっていませんが、性格、生まれ育った環境、ストレスや感染症など、さまざまな要因が関係していると考えられています。そして、なぜ症状が続くのか、なにが影響して症状が悪化するか、など解明が進んでいることもあり、治療が可能な疾患です。
抑うつ状態
失恋したり、友達とケンカしたり、試験で失敗したり……毎日の生活の中でショックな出来事は、誰にでもあること。そんなときは誰だってつらく、悲しい気持ちになりますが、普通は数日もしたら、少しずつ前向きな気持ちを取り戻せるものです。
ところが何週間も、しかも一日中ずっと、そのような状態が続いているとしたら、それはもしかしたら「うつ病」なのかもしれません。では、このようなうつ症状を伴う疾患をお伝えします。
うつ病
- 気分が落ち込んで、これまで楽しかったことが楽しめない
- 体がだるくて、とにかく何もしたくない
- 眠りが浅くて疲れがとれず、仕事や勉強が手につかない
- 食欲がわかない
このような症状が継続する場合はうつ病の可能性があります。
しかし、治療が必要な状態なのか、それとも少し休養していれば自然に良くなる状態なのか、ご自身で判断することは非常に難しいですよね。症状が継続する場合は、早めにご相談ください。
双極性障害
双極性障害は、気分の波(躁状態とうつ状態)を繰り返す病気ですが、程度は人によって様々です。
- 躁状態の時に突然大きな買い物をしたりする方
- 服装やメイクが派手になったりする方
- 不眠不休で活動し続ける方
- 憂鬱な状態が長く継続し、たまに軽い躁状態に現れるだけの方。
双極性障害の場合、うつ病とは治療法が異なります。うつ病の治療をしてもなかなか治らない方が、実は双極性障害だったとうケースもございます。
適応障害
適応障害は、自分を取り巻く環境(仕事や家庭)にうまく馴染むことができず、そのストレスから心やからだのバランスを崩してしまう病気です。進学、就職、昇進や異動など、ご本人を取り巻く環境が新しくなったタイミングで発症する場合に起こる疾患です。
- 集中力が低下して、仕事がうまく進められなくなる
- 不安な状態が継続して、会社に行けなくなる
- 動悸・息切れ・腹痛・頭痛等の身体症状が発症する
- ストレスとなる状況や出来事がはっきりしている
したがって、ストレスとなる原因から離れると、症状は次第に改善していきます。しかし、ストレス要因から離れることが困難で、原因を取り除くことができない状況が継続すると症状が長引くこともございます。
その他の代表的な疾患として
これまでお伝えした、不安障害や抑うつ状態等を伴う疾患の他にも、まだ様々な疾患がありますが、その代表的な疾患についてお伝えします。
睡眠障害
睡眠に関連した多種多様な病気の総称で、大きく分類すると、不眠症・過眠症・睡眠時随伴症があります。
そして、睡眠に関連した多様な病気をまとめて睡眠障害と呼び、睡眠障害のなかで最も多いのが不眠症です。
不眠症とは、その人の健康を維持するために必要な睡眠時間が、量的あるいは質的に低下し、そのために社会生活に支障をきたしたり、自覚的にも悩んでいる状態をいいます。
過眠症とは、日中に過剰な眠気がおきる状態をさします。仕事や学習など日常生活に支障をきたすような場合には、病的と考えられます。
睡眠時随伴症は、睡眠中におきるねぼけ行動をさします。
睡眠障害の背景に、身体やこころの病気が隠れていることもあります。また、カフェインの摂り過ぎ、寝る前のアルコールやタバコ、布団に入った後のテレビやスマートフォンの使用が影響していることもあります。原因となる病気の治療、生活習慣の改善を行い、それでも十分な効果がない場合は、お薬による治療を行います。睡眠の問題でお悩みの方は、ご自身の生活習慣を振り返ってみましょう。
摂食障害
摂食障害は、10代~20代の女性に多い病気で、「神経性食欲不振症」と「神経性大食症」の2つに大別されます。
「神経性食欲不振症」では、体重が減っているにも関わらず、太ることへの強い恐怖があり、過度な食事制限、嘔吐や下剤の乱用、無理な運動を行います。その結果、低体重、低栄養、無月経、徐脈、低血圧、低体温などを来たします。
- 太ももやおなかなどボディラインへのこだわりが強い
- 1日のうちに何度も鏡を確認したり、そのために外出ができなくなったりする
- 極端な偏食、隠れ食い、盗み食い、むちゃ食い、万引き、自傷行為などを認めることもあります
「神経性大食症」では、体重は標準内を保っているものの、
- むちゃ食いの反復と、無理な食事制限、嘔吐、下剤の乱用を認めます
- むちゃ食いは、短時間に大量の食事を摂取し、しかも食事摂取に対するコントロールがきかなくなっているものです。
- 食事制限により痩せられなかったという自己嫌悪、むちゃ食いに対する後悔、罪悪感を感じることある
- また、自傷行為、自殺企図、薬物乱用、万引きなどを行ってしまうことがある
こうした病気の背景にあるのは、「スリムであること」をもてはやす社会、文化の影響です。マスコミや雑誌には、スリムになるための広告があふれています。日本では、20代女性の平均体重は毎年低くなっており、標準体重のー10%の一歩手前まできています。個人個人の病気の原因は異なっていても、全体として、こうした社会の風潮が影響していることは否定できません。両親の別居や離婚、両親との関わりの乏しさ、親からの高すぎる期待、家族から体型や体重に関して批判的なコメントをされることなども、摂食障害の発症に関係していると言われています。
摂食障害は、治療が可能な疾患です。身体を元の健康な状態に戻すためには、次のような側面からの取り組みが役立ちます。食行動のお悩みを抱えている方は、できることから取り組んでみましょう。
統合失調症
統合失調症は、約100人に1人がかかる、決して珍しくない病気です。思春期に発症することが多く、最初は統合失調症と分からず、しばらくしてから診断がつくこともあります。よく知られている症状は、「幻覚」と「妄想」です。
- 幻覚は、実際にないものがあるように感じることで、自分の悪口や噂が聴こえてくる「幻聴」などがあります。
- 妄想は、明らかに誤ったことを事実であると信じこんでしまうことで、嫌がらせをされているといった「被害妄想」などがあります。
統合失調症は、慢性の経過をたどりやすい病気ですが、近年新しい薬や治療法の開発が進んだことにより、社会復帰できる方が多くなっています。しかし、症状がなくなったからと自分の判断だけで薬をやめてしまうと、再発してしまうことが多いため、症状が出ないように必要な薬を続けながら、気長に病気と付き合っていくことが大切です。
心的外傷性障害(PTSD)
PTSDは、過去の強い恐怖感を伴う記憶(自然災害、火事、事故、暴力、レイプなど)がこころの傷となり、そのことが何度も思い出されて恐怖を感じ続ける病気です。
- 突然、つらい記憶がよみがえる
- 記憶を呼び起こす状況や場面を避けてしまう
- 常に神経が張り詰めている
このような症状が出てきます。ストレスとなる出来事を経験して数週間後、時には何年も経ってから症状が出ることもあります。しかし、同じような経験をした人が全員PTSDになるわけではありません。どんな人がPTSDになりやすいのかは、まだ分かっていません。こころの弱い人がPTSDになるわけではなく、屈強な男性がPTSDに悩まされている例もみられます。
解離性障害
解離性障害は「自分が自分である」という感覚を失ってしまう状態のことです。
- 過去の記憶の一部が抜けて落ちる
- 体の感覚の一部を感じられなくなったりする
- 感情が麻痺したりする
- いつのまにか自分の知らない場所にいたりする
原因としては、災害、事故、虐待、暴行、レイプなどによるストレスや心的外傷が関係していると言われています。解離性障害でみられる症状は、つらい体験から自分を切り離そうとするために起こる、一種の防衛反応です。
治療の基本は、患者さんが安心できる環境をつくること、そして、家族などまわりの人に病気について理解してもらうこと、主治医との信頼関係をつくることなど、安心できる関係性を築くことが非常に重要です。